ぼくのお父さんは魚になりました。
『星になる日』 ヒトのお父さんを最後に見た人が「崖の上」だと言っていたから、きっとお父さんはそこから魚になって海を泳いで行ってしまったのだと思います。
白と黒の長い布がぼくのおうちの周りを囲んだ日にも、お父さんが入るはずだったとだれかが言っていた白い木の箱の中には誰もいませんでした。
お父さんは魚になって、まだ誰にも釣りあげられていないからです。
きっとまだ、広い広い海のどこかを泳ぎ回っているのだと思います。
ぼくやお母さんのことを忘れてしまったのかもしれないと思うと少しだけさみしい気持ちがしたけど、しょんぼりしていたお父さんが元気になって泳いでいたら、とてもうれしいなと思いました。
お父さんのお友だちだと言う人は、空っぽの箱の中を見てぼくと同じようなさみしい顔をしていました。
だから、お父さんが元気でいるのはうれしいけれど、お友だちをさみしい気持ちにしてしまうのはとてもざんねんだなと思いました。
だからぼくは、ちゃんと白い箱の中に入りました。
ぼくはたぶん魚にも鳥にもなれたけれど、お母さんやお友だちにさいごに悲しい気持ちになってほしくなかったので、がんばって「ぼく」のままでいました。
みんなは箱の中のぼくをなでて「よくがんばったね」と言ってくれました。
だからぼくは、たくさん痛いことやつらいこともあったけれど、がんばってここに入ることができてよかったなぁ、と思いました。
ぼくは魚にも鳥にもならなかったので、星になるのだそうです。
魚の泳ぐ海の底よりも遠くて、鳥の飛ぶ空よりも高いところに行くのだそうです。
お母さんやお友だちとはなれてしまうのはちょっと不安だけれど、きっとそこからなら地球を丸ごと見わたせると思います。
お母さんやお友だちをかんたんに見つけられるし、魚になったお父さんも見つけられると思います。
ぼくは目がとてもいいから、すぐにお父さんを見つけられます。
そしたら、だれかに釣りあげられてしまう前に、ちゃんとお母さんに教えてあげなくてはなりません。
ぼくが魚や鳥になっていたら、きっとお父さんを見つけられないと思います。
だからやっぱり、ぼくは「ぼく」のままでいられてよかったなと思いました。
………お母さんにエールを贈りたい…
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