脳内で溢れて漏れた言葉が、ときおり、指先から滴り落ちることがある。
そのままにしておくのは勿体ないので、僕はそれをなぞって形にしてみる。
そうするとそれは、初めに思い浮かべたものとは全く違った形になってしまって、
僕は大変驚いてしまう。
『喪失アイデンティティ』「あら、タイムマシンを使ったの?」
都会に住む少女が言いました。
「そっちこそ、どこかで時間の溝にでも嵌まってるのかと思った」
農村に住む少年が言いました。
『大きな時間差』歪曲的表現(比喩)の美しさの喪失に比例する意思疎通の不具合
=満員電車の不快指数
『真っ黒な方程式』昼の暖かなうたた寝から目が覚めると、青い蝶々がひらひらと泳いでおりました。
私がそのつがいを目で追うと、彼女らは一輪の小さな花の方へ飛んで行きました。
あぁ、あそこには。
あの小さな花の下には、いつかの置き忘れた私の心<しがい>が埋まっているのです。
置き忘れた私を置き去りにして、勝手に花を咲かせてしまったのです。
『真直ぐなことの残酷さ』僕と世界の相性はよくない。
すこぶるよくない。
だから世界はすぐに、僕の大好きなものを消してしまうのだ。
好きなお菓子も、好きな本も、好きな場所も、好きだった人も。
『孤高と呼ぶにはあまりにも』目の前で脳みそがちかちかと点滅している。電池の切れかけた電球のようだ。
これは寝不足脳。
ちゃんとスイッチを切って充電しなくてはならないのに、つけっぱなしにしているから充電が切れてしまうんだ。
切れば切ってるだけ溜まるってもんじゃない。
タイミングと適切な時間というのがあるっていうのに。
だから私が毎日きちんとスイッチのONとOFFを切り替えてあげていたのに。
OFFにしてもいつの間にかONになっていたり、豆電球がうっすらと付いていたりして…
あまりにイライラしたから、元の電源から落としてしまった。
それがちょうど5年前の話。
ちゃんと翌朝にスイッチを入れたのに今でも彼は、ずっと眠ったまま。
切れば切ってるだけ溜まるってもんじゃない。
タイミングと適切な時間というのがあるっていうのに。
上手くいかないものね、人と言うものは。
『彼は狂っていたはずなんです』…私ではないわ。
冷えた朝、猫を膝に乗せながら泣いていたら、透明な球体が口からふわりと浮かんだ。
透明な表面を虹色がさまようそれは、おそらくシャボン玉であった。
口を開くとぷわりともう一つ。
シャボン玉は私の口から飛んでいく。
一体誰が、ここで私が泣いていることを知っているだろうか。
一体誰が、音にできなかった私の気持ちを知っているだろうか。
一体誰が、表記できなかった私の思考を知り得るのだろうか。
表舞台の光の欠片さえも触れることのなかったいくつもの言葉たちは、
一体どこへ行くというのだろうか。
(あるいは行くことすらもできずに霧散してしまうのか)
シャボン玉は風に煽られて、弾けることもなく消えてしまった。
『夜明け前の虹、あるいは。』朝5時。目覚ましが鳴る。
「無駄、」
「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無」
がしゃん
今日も私は目覚ましを破壊して起きる。
朝が来たことくらい分かっている。
『それ』くらい、分かっている。
『あしたもまたね』学校帰り、浜辺に着くや否や彼女は海に向かって駆け出した。
途中でバッシュを脱ぎ、踝までの靴下を脱ぎ、砂を巻き上げて走って、波打ちまで入って行く。
寄せる波が制服のスカートに触れるくらいのあたりで、彼女は止まった。
「っぁあああああああああああ゛あ゛っ!!!」
そして喉が避けるんじゃないかと思うくらいの声を上げる。
後ろから眺める彼女の背中が、びりびりと響いた。
「ぼくだってなりたいんだっ!!分かるようになりたいんだっ!!
分からないことが悔しい!悔しい!!悔しいんだっ!!
現状に満足しているわけじゃないっ!!上を目指したいっ!!どうして力不足なんだぼくはっ!!
何もできない!できないっ!!ああああああああくっそぉぉおおあああっっ!!!」
潮騒に紛れる彼女の声は、しかし後ろにいる私にさえ痛いほど届いた。
「……スッキリしたー?」
私は聞いてみた。返答など、聞かなくても分かっているけれど。
「するかぁっっ!!!」
だろうよ。
彼女が心から解消されるのは、「なりたいように」なり、「分かりたいように」分かり、「出来るように」出来たときだろう。
そのためには、こんなところでこんなことしている場合ではない。無駄だ。
「ちっくしょぉぉおおおおおっっ!!!」
しかしそれと分かっていても、叫びたいときはある。
私たちは未だモラトリアムの中にいることを許されているので。
『夏は死んだ』誰かの幸せを願わないと生きてはいけない気がしてならない。
『こんにちはロンリィガール』充電の切れたケータイの黒い画面から顔を上げると、眩しいくらいの真っ青な空があった。
あぁ今日は、なんて死ぬのにもってこいの日。
世界から途切れた小さな窓を、僕は足元100Mの虚空へ放り込んだ。
『水葬日和』「あら、今日あなたの誕生日じゃない。何か欲しいものを言ってごらんなさいよ」
「存在理由」
「では私の残りの人生をあげるから、私の為に生きればいいわ」
「……お見事なプロポーズで」
『うれしくないわけないじゃない』気持ちは量れないとか、人が愛と呼ぶものと自分があいと呼ぶものが同じかどうか分からないとか。
嘯いて。
「あなたの"好き"に追い付けないの」と逃げるのだ。
『結局こどもだったの』本当はいつだってどうしたってどこにいたって何が何でもどうしようもなくどんなことをしても
『それから?それから。』にじうすうねんかんのみちのりのなかで
わたしはまだ そこに にんげんをみつけられない
『無垢な異端児、羊水と影の行方。』「ねぇ、殺してくれないかな?」
「あぁ、うん、宿題終わったらね」
『そう簡単に世界が終わると思うなよな』「…何してんの、キング」
「うん?…あぁ、まあ」
屋上への扉を前に、キングが何かを阻むように立っていた。
珍しく微妙な笑顔を浮かべて、やはり何かを示すように顎で扉の方を指す。
よく意味が分からずに俺はいつもの扉を開けて、すぐに気付いた。
「…どゆこと、りんちゃん」
「えー…と…。うん、まぁ」
明確な苦笑でもって、りんちゃんが頬を掻く。
少し離れたところでイズミがしゃがみ込みながら更に奥に居る郁を眺めている。
その郁が、青い青い夏空の下、大爆笑をしていた。
ごろごろと寝転がりながら止まない爆笑、いっそ何かキノコでも食べたのではないかと思わせるような空虚な、意味の無い、音だけの笑い声が響いている。
ちょっと壊れてるその様子を見て、キングが扉の前にいる理由がよく分かった。
俺はイズミの隣に座り込んで同じように郁を眺めた。
きっとイズミは一番最初からここに座って、こいつを眺めていたんだろう。
そしてその後ろでりんちゃんが、封を切ってないペットボトルを持って。
やがて郁の笑い声が小さくなり途切れると、俺は立ちあがって傍に寄る。
見下ろすと奴は笑い疲れて(?)気持ちよさそうに眠ってしまったようだ。
幸いにして俺はブレザーを着ていたので、腹痛持ちの腹にかけてやることが出来た。
おそらくは泣いていたのだ、彼は。
『全能の君より何でも知ってる』"みんなが幸せになりますように"
その不可能を願うことで、僕はソレを証明し続ける。
『神さまの不在』努力をしない人間に世界が優しくあるはずがない。
…という、逆説。
『(無題)』(随時追加予定)
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