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まいどですとらこです。
タイトルに思い当たることがあればぜひ「まどかっまどかさまっっ」とびりびりして頂きたいです。まどかと言っても魔法少女の方じゃないですよ。
そういえばいつかの猫日記の際に、とらは猫になったらどんな毛並みになるんだろうかと考えて、黒傘の黒か、とらなのでキジトラか、とわくわく悩んでたら「色素薄いんだから白だろ」と冷静に突っ込んだ自分自身に(´・ω・`)ショボーンでした。
いや白猫別に嫌いじゃないですよ、ていうか猫大好きですし。白猫と黒猫のどちらをよく見かけるかって言われると黒猫なんだよなぁ、白猫さんて近所にいないんだよなぁ。


さて、常々とやりたかったことがありまして、ホントは市岐の話がひと段落してからと思っていたのですが、久しぶりに打ち込んでみたらあれよあれよと動き出しまして、ひとまず最初だけ出しておこうかなと思い立った次第です。
前回とは違うメンバーで構成してみたいですね^^
あ、あと予定としては今回も賢人が出てきます。楽しみすぎる、私が。

補足的な小話が一つと、本編が一つあります。
続けちゃいますが、時間としては小話の方がずっと後です。



双頭の鷲 編


002.灰色の証

057.約束が窓を叩く

029.鈴なりの秘密

067.凍える闇を越えて

095.双子たちの再会
会話群 01



 「…つまり、世界は"黄昏の大海"・"一つの朝"・"夢見る本棚"の三層構造となっているがそこに上下は無くすべて同階層に存在する。それぞれ"大海"、"朝"、"本棚"あるいは"仮本"と呼ばれ、いずれの階層にもほぼ権限の問題なく干渉できるのが"七賢"と呼ばれる存在だ。それ以外は権限獲得のために訓練が必要となる。最近は"仮本"の方は一部権限の制御を無くしたようで、"朝"に属する者の間での閲覧はそれぞれ個人の制御が可能になったようだね。
 世界構造の話は分かったかね?」

 「おぅ、分かった。
 ツマリ、セカイハ”タソガレノタイカイ”・”ヒトツノアサ”・”ユメミルホンダナ”ノサンソウコウゾウトナッテイルガソコニジョウゲハナクスベテドウカイソウニソンザイスル。ソレゾレ”タイカイ”、”アサ”、”ホンダナ”アルイハ”カリホン”トヨバレ、イズレノカイソウニモホボケンゲンノモンダイナクカンショウデキルノガ”シチケン”トヨバレルソンザイダ。ソレイガイハケンゲンカクトクノタメニクンレンガヒツヨウトナル。サイキンハ”カリホン”ノカタハイチブケンゲンノセイギョヲナクシタヨウデ、”アサ”ニゾクスルモノノアイダデノエツランハソレゾレコジンノセイギョガカノウニナッタヨウダネ。
 メモリィ、覚えた」

 ………なんだか負けた気分だ。








002. 灰色の証



 がたん、と車輪が舗装もままならない田舎街道の凹凸に足を取られ、乗合馬車の質素な客席が大きく揺れる。

 乗合馬車の乗客は4人。しかしそのスペースは大量の商品に埋もれ、乗客は少し窮屈そうだ。

 「……」

 二人組の人間種族の乗客の内一人の少年は、向かい側に座っている獣人の商人を剣呑な視線で見やるが、商人とは多少精神が図太くなくてはいけない。
 まったくその視線に構うことなくゆうるりと商人は構えていた。
 彼もいたしかたないと悟ったらしく、今度は物珍しげに並ぶ商品を眺めた。どこの出身かは分からないが、都会出身であってもこの商人の品物の中には見たことのないものがあるだろう。
 特に、その中の一つの鳥かごに入ったものは絶対に。

 「…なぁ、トム、あれ」

 少年が、隣に座っている青年の腕をつついてその鳥かごを示そうとした、瞬間。

 がたんっ

 今度は非常に大きな揺れが、馬車を襲った。そして、得体の知れない唸り声が響いた。

 「トム!」

 少年が叫んで、隣に座っている青年を呼ぶ。しかしその前に既に動いていた青年のその手には、一丁の銀色の銃。
 ば、と荷馬車の扉をあけると、そこにいたのは狼型の『異形』だった。
 ぐるぐると喉を鳴らして威嚇している『異形』が青年の影から見えたのか、セリアンの商人が悲鳴を上げた。
 だから、というわけでもないだろうが、赤髪でそばかすの青年は明らかに口をへの字に曲げる。

 「…逃げんぞ、大介」
 「逃げんのかよ?!」「逃げるのか?!」

 自分の声と別の声が重なって驚いたらしい少年が振り返る。その少年を押しのけるようにセリアンの商人が赤毛の青年に縋りついた。

 「その銃で追っ払ってくれ!ここには私の商品があるんだっ」
 「ぁあ?知らねぇよ、おい大介」
 「金か?!追い払ってくれたら弾んでやるぞ!?」
 「あのなおっさん、俺たちはまだ学生で、『アレ』を勝手に討伐できねぇのよ。討伐依頼は"ソレンティア"までお願いしまっす」
 「言っている場合か?!あんたたちはどうするんだ?!」
 「だから逃げるの。おっさんもどさくさに紛れて逃げちまえよ」
 「だから私には商品が」
 「トムっ」

 大介と呼ばれていた少年が叫ぶ。『異形』の一匹がトムと呼ばれた青年めがけて駆けた。
 ち、と苛立たしげに舌を打って、トムはその足元に銃弾を撃ち込む。『異形』は一瞬怯んだが、別の『異形』が代わって襲ってくる。
 トムはセリアンの商人を抱えて横へ飛び、抱えていた"荷物"をその辺に放り投げた。

 「大介っ閃光は?!」
 「無いっ!俺まだ権限が無いっ」
 「俺もですっ」

 『異形』の突撃を回避しながら二人して情けないことを言っていると、「?!っぉわ!」
 唐突に横からの衝撃、乗合馬車が大きく揺れて倒れた!

 「くっそ…っ」

 トムは毒づいて壁に銃弾を連発して撃ち込んだ。そして体辺りをしてブチ破り、外へ逃げる。衝撃からよろめきつつも、大介もトムの後ろに続いた。
 外は広い乾燥地帯だ。見通しがいいどころではない。
 振り返れば、馬車を襲った『異形』たちが追ってくる。いずれもよく見る狼型の『異形』のようだ。大きさもほぼ狼と同じくらいだろう。
 その後ろに見える転倒した乗合馬車からおそるおそると顔を出している商人の頭が見えたので、どうやら向こうは無事のようだ。

 「おいおいおい、なんで追ってくるんだよ?!」
 「俺が撃ったからかな?」
 「ど、どうするんだ?!このまま逃げ切れるとは思えねぇんだけど…っ」
 「参ったな、撒きようもねぇな、この見通しの良さだと」
 「学生の身とはいえ仕方なかろう、私が影響調査の責任を持つから、討伐したらどうだね?」

 え?と、トムと大介が顔を見合わせた。

 「え、何、今のお前?」
 「ちげぇよっ!大体声が違ったろ」
 「じゃあ誰だ」
 「私だ、私。大介・藤森、君のフードにお邪魔しているよ」
 「なんっ、?!」

 ひょっこりと、大介のジャケットのフードから顔を出すと、横手にいたトムとばっちり目が合った。
 乗合馬車の乗客の4人目、鳥籠の中から横転の拍子に脱出してきた、私だ。
 その私にトムは間髪入れず銃を向ける。危機的状況に慣れている判断だ。

 「ちょっ待てトム…っ!!」
 「お前じゃねぇよ大介。ちょっと動くな、お前に当たる」
 「止まれってか?!後ろ後ろ!」
 「君の判断は賢明だがね、ここは大介・藤森の判断が正しいと思うぞ、トム・ブラックマン。
 君たちに害は齎さない、私の命も掛かっているのだからね」

 私の言葉に、トムは十分訝しげな視線をやってからひとまず銃を下げた。

 「影響調査っつったな?」
 「ああ、あの『異形』を討伐した後の世界への影響調査だ。まぁ特に大きな影響を持った『異形』でもなさそうだがね。
 場合によっては『対応』の調整も行おう。どうだね、これならば懸念なく討伐できないかね?」
 「その言葉を信じれるのか?」

 胡乱気な視線を受けて、私はしっかりと応えた。「"迷子"の二つ名にかけて誓おう」
 大介の動揺は、トムの驚いた顔に現れたのと同じだろう。しかしすぐにトムはニヤリと不敵に笑い、後方に銃を構えた。

 「大介っ!」
 「おぅ、トム、これ頼む!」

 後ろのフードにいる私をむんずと掴んで、大介はぽいとトムの方に投げてよこした。宙を回った私を、トムはしっかりとキャッチした。

 「慌ててばかりだと思ってたのに、私を投げ飛ばすとは肝が据わっているな」

 私がぼやくとトムは軽い笑い声をたて、腰のヒップバッグを開けて入れる。
 大介の両腕が赤い燐光を放ち、幼げな風貌にはやや似つかわしくない無骨な大剣を抜き払った。
 トムが銃を構え、大介が狙いを定めた『異形』の足を撃ち抜いた。その正確さに、私はバッグの中から眺めて驚く。
 前には仲間がいるのだ。そのすぐ足元を狙う。仲間の軌道を読み、更に正確さを求められる一撃だ。
 バランスを崩した『異形』の隙を逃がさず、大介は大剣を振り下ろす。剣そのものの重みと、おそらくあの赤い燐光で強化されたスピードで、『異形』の頭がかち割られた。
 休む隙も与えず、トムは次の『異形』の足を狙う。トムが狙いをつけ、大介が止めを刺す。それがこの二人のスタンスのようだ。
 やがて動くものがいなくなり、大介が大剣を一度振って私たちを振り返った。

 「おー、ご苦労さん」
 「おぅ」
 「まだだぞ」

 バッグの蓋を押し上げて顔を出している私の言葉に、大介が「はぁ?」と首を傾げた。辺りにはもう大介とトムしかいない…ように見える。

 「馬車を倒した奴がいるだろう。先ほど倒した狼大の『異形』よりもっと大きなものが」

 狼ほどの『異形』では、あの馬車を横転させるのは無理だろう。
 私の言葉にトムは再び銃を構えて、大介は収めた剣の柄に手を掛けて、周囲を警戒した。そして、私たちを囲む大気の気配が張り詰める。
 ふと私とトムの視線が大介の方へ向く。その彼の後ろ。「避けろっ大介!」
 ゆらりと陽炎のように大気が揺らめき、水面から勢いよく顔を出すように巨躯の狼が現れた。
 巨大な口腔で大介に食らいつこうとしたが、間一髪、転がるように大介はその牙を逃れた。大介を食らい損ねたその隙を、トムは逃がさず撃ち込む。
 が、その姿が再びかき消えた。

 「……どういうことだ…?」

 トムが呻くように呟いた。姿の見えなくなった敵に、大介は全方位に警戒をしながらトムの横に戻ってきた。背中を合わせ、二人で死角を潰す。

 「おい、ちっさいの、お前どういうことか分かるか?」
 「何がかね?先ほどの『異形』が見えなくなったことかい?」

 大介が背中越しに尋ねてくるので、今現在、彼の関心が先ほどの『異形』以外にないことは察しつつも念の為確認をすると、「そうだ」と彼は頷いた。
 私は少し考えた。『異形』が見え隠れする原因は分かるのだが、その原因の起因を…今ここで言うべきか否かを一瞬、逡巡した。

 「…先ほどの『異形』はまだ"朝"に顕現しきれていないのだよ」
 「どういうことだ?」

 結局、原因だけ答えた私に更に質問したのはトムだった。

 「ここで世界の三層構造について解説をする気はないのだけれど、その概念はお持ちかな?」
 「"大海"と"朝"と"本棚"の話なら知ってるぜ」
 「それで結構。先の『異形』は"大海"から"朝"に呼び出されているのだけれど、中途半端な呼び出され方をしているので"大海"から抜けきっていないのだよ。だから今、私たちの存在する"朝"に出てきたり、元の世界の"大海"に沈んだりしている」
 「あいつの意思で消えているわけじゃないのか」

 大介が驚いたような声を上げるのと同時、トムの右手側3メートルの空間が揺れた。
 トムが銃を構え、大介が大剣を抜き払った瞬間、虚空の水面から巨躯の狼が飛び出した。トムの銃口が吠えて狼に撃ち込まれるが、重い風のような勢いが殺されることは無く、大介とトムは横手に飛び込んで回避した。
 大介は素早く体勢を直して巨躯の狼を追撃に掛かる。狼が止まることなく身を翻し再びこちらへ突っ込んでくると、すれ違いざまに大介の大剣が狼の足元を薙ぎ払う。
 狼が吼えた。その声は壊れかけたラジオのように断続的で、ザリザリとした音だった。
 奇妙な咆哮にびりびりと大気が震える中、再びトムが狼の頭部に照準を当て、しかしてその姿が波打って、消える。

 「…やりにくいなっ!!」

 だぁ、と思わず突っ込んでしまったか、トムがイライラと叫んだ。

 「"向こう"に沈んでいる間はあいつも手出しは出来ねぇみたいだが、これじゃあ無駄に体力使っちまう。
 どうにかこっちに足止めしておくことは出来ねぇか?」
 「そもそもそんな『異形』を見たことがねぇっての。物理的に足止め食らわせといたからって、"大海"に潜っちまったら意味ねぇだろ」
 「ユベオーとかヴィンクタスペンナとか、それっぽいもんは?」
 「それが層を含んで固定させているのかどうか分かんねぇって。そんなこと意識したことねぇもん」

 首を振る大介に、というわけではないだろうが、トムは周囲を警戒しつつ舌打ちをした。
 二人の会話から察するに、トムは生粋の狙撃手で、大介は基礎魔法をベースとした魔法剣士のようだ。トムは魔法が全く使えないのだろうかと彼の横顔を眺めていると、周囲を窺っていた視線とがっちり合った。

 「…なんだよ?」
 「いや、……いや、そうだな、トム・ブラックマン。もし君が私と契約を結んでくれるならば、私があの狼を元の召還者に代わってこちらに顕現させよう」

 当然、私の言葉にトムと大介は驚いた顔で振り返った。代行で、しかも召還の引き継ぎをすると言っているのだ。
 そんなことができるのかと、二人の目は語っている。

 「何が目的だ?」

 しかしトムはすぐに切り替えた。この場で出来ないことを言う利点は、誰にもない。
 彼は魔法の知識は少ないが、こうした実践的な要素は大介より格段に身に付けているように見えた。

 「なに、別に君の命が欲しい等というわけではないよ。
 ただ私を安全なところまで運んで欲しいのだよ」
 「お前を安全なところまで運ぶ、だな?」

 再度確認をするトムに向かって、私はしっかりと頷いた。「そうだ」

 「分かった。お前と契約しよう」
 「まいど」

 トムの返答に、にやりと私が笑うと彼はぎょっとしたように私を見た。
 これで身の安全は確保できよう。
 ひょいとトムのバッグから彼の肩へ飛び移り、私は異界…"黄昏の大海"への接触を宣言した。

 「つなぐ たそかれの大海」


 この世界は"黄昏の大海"、"一つの朝"、"夢見る本棚"の三層から成り立っている。通常それぞれを、"大海"、"朝"、"本棚"あるいは"仮本"と省略して呼ぶ。
 そして今、私たちが存在する層は"一つの朝"という階層で両脇を2つの層に挟まれている世界だ。
 『異形』と呼ばれる存在は本来"大海"に存在しているのだが、とある事情で"朝"に顕現される。その存在は"大海"に存在している"力"の具現化なので、放っておけば"朝"では破壊行動しか起こさないため、こうして彼ら"冒険者"たちに討伐の依頼が来るのである。
 あるいは人為的に、その『異形』を"朝"に顕現させることがある。召還魔法による顕現だ。
 今、私たちが対峙している巨躯の狼の『異形』は、こちらになるのだろう。
 こちらによる顕現は召還魔法の権限が無ければ"本来は"起こらなく、また召還者の統制下にあるため"大海"の"力"の具現化ではあってもこんな風に襲いかかってくることはない。…はずであるが、ときたまこうした権限不十分による召還が行われ、中途半端に"朝"に呼び出されることがあるのだそうだ。
 そうだ、というのは話しには聞いていたのだが、私も初めて見るので。
 あの狼そのものがこちらに顕現しようとも世界にそれほど影響があるとも思えないが、この中途半端な状態はあまり頂けないと思われる…
 "誰か""動いて"いないのだろうか?


 「ちゅうしゅつ
   ひらく かそうちゅうしゅつりょういき
   しゅとく 大海・すべて
   りょういき 黄昏の大海 別称 大海
   じょうけん しゅとく 大海・すべ…てぇっ?!」

 詠唱途中、突然トムが動いたので私は慌てて彼の肩にしがみついた。
 途切れた詠唱を続けながらそれまでいた場所を振り返れば、木の幹のような前足が地面を抉っている。そして水面から三再び。

 「まだか?!」

 大介は私に叫んだのだろう、私は急いで式を組み立てる。狼の周りに青い燐光を伴った文字列が生まれ、まるで拘束するように巨躯を包み込んで行く。
 唸り声を上げて狼はこちらを、いや、トム・ブラックマンを見た。

 「トムっ」

 大介が叫んだ。大地に鈍い爪後を刻んで、狼が襲いかかる。
 私の詠唱はまだ終わらない。どうするつもりかとトムの横顔を見て、私は怪訝に眉を寄せた。
 彼は笑っていた。酷薄に。

 「"真っ直ぐ"な奴は嫌いじゃねぇぜ」

 トムはまだ残っていた弾倉の銃弾を抜き、狼の爪を横転で回避、回転から体勢を立て直すと同時に、別の弾倉を詰めた。
 銃を構えかけ、しかし狼の追撃に再び横っ跳びに回避させられる。狙いが着かない。

 「チビっまだか?!」

 トムが私に怒声を上げるのだが、横転した際に吹っ飛ばされたおかげで最後の詠唱が途切れたのだと心の底から抗議したい。
 よろよろと私は立ち上がり、文字列を纏った狼を見据えて、高らかに宣言する。

 「…かそうちゅうしゅつりょういき とじる

 定義の順次実行
 対象の"大海"への接触権限を全て削除、代行者に再作成せよ
 代行者 彷徨える案内人!」

 狼を包んでいた文字列が上から順番に一際輝いては砕け散っていく。そして全ての文字列が砕けた。

 「好きにしてくれ」

 前にいるトムにそう声を掛けると、彼は銃を軽く揚げて応えた。
 自分の身に異変が起きたことを狼は察したか、トムの奥にいる私を見やった。しかしすぐに、やはり、トム・ブラックマンに意識が戻り、構わず牙を剥く。
 ぐあ、とトムへ飛び込んでくる狼を、ギリギリのタイミングで回避。「?!ぅうっわ」
 勢いを殺し切れない巨躯が、かわしたトムの先にいた私のところまで滑り、あわや轢かれる、瞬間、

 「っ……」

 世界が揺れたんじゃないかと思うくらいの衝撃が襲った。しかし、今だこうして意識が続いているということは…

 「助かった、大介」
 「てめぇ…なんでいきなり落っこちてんだよ…」

 間一髪、滑り込んだらしい大介の手にしっかりと掴まれていた。忌々しげな大介の呟きに「横転されたからだ」とおそらく見てたままを応えて、私はトムを振り返った。
 狼の突進を回避したトムは既に銃口を構え、その狼は横手に飛んだトムに向かって巨躯に似合わない速さで向き直った。
 十分な射撃距離だ。しかしトムはまだ引き金を引かない。
 狼が凶悪な口腔を開けて彼を食い千切ろうと駆ける。"真っ直ぐ"と彼は言った。真っ直ぐだ、狼は、標的向かって真っ直ぐに。

 「Addio」

 軽い、しかし二度と会わないさよならの挨拶の後に響いた銃声は、2発。
 赤毛の頭に牙が届く、瞬間。
 頭部が、胸部が、景気良く吹っ飛んだ。
 詰め替えた弾倉にはイグニとヴィンテが付与された銃弾が詰まれていたのだ。

 「召還した野郎によろしくな」

 ふ、と銃口の煙を吹き飛ばして、トム・ブラックマンはホルダーへ彼の銀色の獲物を収めた。



 「なぁお前、さっき鳥籠に入ってたよな?」

 私を掴んだまま、大介は質問してきた。

 「ああ、入っていたとも」
 「てことは、お前、あの商人の商品なんだよな?」
 「失敬な!私をあれらの商品と横並びにしないでくれたまえ!」
 「でも商品なんだろ?」

 純粋に疑問だ、と言った目で再度質問をしてくる大介に否定を唱えようとすると、遠くから呼ぶ声が聞こえた。
 振り返れば、馬車にいた商人がこちらへ走ってくる。

 「あぁそれだ、それだ…!」

 商人は息を切らせて大介の手を指し、つまり私を指して言う。「それを返せ」
 二人にとってみれば私は商品の中にあったものであり、この商人の言うことはもっともなことではあるのだが。二人が一様に不愉快そうに眉を顰めたのは当然と言えよう。

 「別にいいけどよ…」

 それでもこの二人が特に抗議することなく商人の要求に応じたのを、私は心の中で讃えた。立派なもんだ、浅慮で腐った正義感の強い輩であれば間違いなく言うことだろう、「助けたのだから礼くらい言え」と。危機的な状況を打破した相手に礼を尽くすのは対人関係における当然の礼儀であるので、この主張は決して間違ってはいない。
 差し出された私が商人の手に受け渡されようとした間際、私は暗く笑う商人に向かって断言した。

 「私はトム・ブラックマンと契約した」

 商人の双眸が驚きに見開く。

 「つまり私はお前に連れてかれる理由が無くなったということだ」
 「…あり得ない…っ!賢人があんな小僧と契約だと…?!」

 驚愕とも怒りとも混ざった表情で商人はトムを見た。当人は「悪ィっすね」くらいの勢いでめんどくさそうに頭を掻いている。
 いつの間にか銜えていた煙草を器用に揺らして、トムは言った。

 「そんなわけで、それは俺がきちんと"安全な場所"まで連れていくんで、おっさんは"ご自分の"商品が壊れてねぇか確認してさっさと町まで行くことをお勧めすんぜ」
 「ふざけるなっ!私がこれを手に入れたんだ!」
 「ほぉお、では賢人たる私の契約を破棄出来るということか?
 何の権限も持たないお前に出来るのかね?」

 トムと私で交互におっさんを刺していると、商人は爆発するんじゃないかと思うくらい怒気を溜めて私たちを見た。
 そして、私に向かって小声で警告する。

 「…お前が向かっていた行き先は覚えているんだろうな?」
 「あぁ、覚えているとも」
 「これで済むと思うなよ」

 完全に悪役のセリフを決めて、商人はくるりと乗合馬車の方へ戻って行った。
 その後ろ姿が小さくなると、大介がぽつりと呟いた。

 「驚いた。お前ホントに賢人なのか。
 8番目だよな、"彷徨える案内人"」
 「君は私を何だと思っていたのかね…」
 「新種のドワーフとか」

 小さすぎだろう、と私が突っ込むと、新種だから?と大介は首を傾げた。

 「さーぁて、俺たちも荷物取りに戻らなきゃな。またアレと顔を合わせるかと思うとあそこに戻りたくねぇんだけど」
 「それは向こうとて同じだろう。私たちが着く前に退散していることを願おう」
 「はぇえだろそれ」

 たらたらとトムが歩いて行く横に、大介が駆け寄る。

 「しかし少し懸念していたよ」
 「ぁあ?」
 「あの商人に返されてしまうのではないかとね。あの鳥籠も一応は"安全な場所"だろう」
 「あぁ…」

 なるほど、とトムと大介が頷く。あぁまぁ、思いついてすらいなかったのだろうとも思ったがね。
 トムは先ほどのことを思い出しているのか、半分座った目をして言った。

 「まぁどっちにしろ、俺あのおっさん嫌いだから」

 返さなかったし、と続いた言葉に、「子どもか」と私は思わず笑ってしまった。
 その私の様子に、二人は少し意外そうな表情をした。

 「お前こそ俺たちみたいな学生に運ばれるより、あの商人と一緒にいた方が環境的にはよかったんじゃねぇか?」
 「やめてくれ、私は鳥籠に入る趣味はない」
 「趣味の問題か??」
 「鳥籠に入るなら君たちの肩の上の方がマシだ」
 「馬鹿言え。"安全な場所"まで運ぶと契約したんだ、依頼人の安全の確保は必須だ。お前は到着までカバンの中だよ」
 「息が詰まる!」

 私のやっと出来た抗議を、しかしトムは「へいへい」と流した。





 それは俺と"ソレンティア"の学生が出会ったときの思い出。
 思い出と呼ぶには少し騒がしくはあるが。





双頭の鷲





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結構前の話しなのですが HOME もう君とこんなこともできないんだね