
背中合わせの2人がいる。
「あぁきれいだなぁ」
「うん、きれいだねぇ」
2人は似ていたのかもしれない。
赤毛の人間は遥か遠い海原を見て呟いた。
白銀髪のダークエルフは雪を戴いた山脈を眺めて相槌を打った。
2人は似ているのかもしれない。
灰目は真夜中の世界で青空を抱え、白眼は冬晴れに夜を閉じ込めた。
「ちょっと行ってみようかな」
「そうね、行ってみるといいよ」
2人は似ているのだろう。
好奇心の人間は、自由でありながら他者の概念と自身の思考に縛られた。
警戒心のダークエルフは、自身の決意でもって他者(自己)の為に自分の位置を決めた。
人間が立ち上がり、眺めていた方向へ歩きだす。
残されたダークエルフは胸ポケットから煙草を取り出してふかした。
やがて、弾む足取りで戻ってきたのは白い小さな女の子だ。
ダークエルフの長い耳に内緒話をして、人間が座っていた場所に黄色いたんぽぽを植える。そうしてまた来た方へ駆けていった。
そして煙草を潰したダークエルフが立ち上がり、見つめていた方向へ歩きだす。
残されたたんぽぽが、春風に揺れた。
2人は似ていたのだろうか?
赤毛の人間は自分の望むままに帰るべき場所が無く、白銀髪のダークエルフは誰かが望んだ場所へと帰る。
残された揺れるたんぽぽに丸い影が落ちた。
隻腕の雨傘が、見下ろした小さな花を見て苦笑した。
以下、不思議でならないこと。
以下、不思議でたまらないのでよく考えること。
以下、不思議でたまらないのでよく考えるためにたまに身動きが取れなくなること。
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なぜ 思い出を大切にするのか。
なぜ教科書を開くと眠くなるのか。
なぜ学ばなければならないのか。
なぜ人を傷つけてはいけないのか。
なぜ自分を定義できないのか。
なぜ光は集まると白くなるのか。
なぜ色は集まると黒くなるのか。
なぜ時間は進むのか。
なぜ過去には戻れないのか。
なぜ電車の発車ベルを聞くと不安になるのか。
なぜ溺れる夢をよく見るのか。
なぜ人を殺してはいけないのか。
なぜ自分はここにいるのか。
なぜ意味の無いことがあるのか。
なぜ時間とともに選択できる可能性が狭まれてしまうのか。
なぜ見えないものに不安を抱くのか。
なぜ見えないものに期待を抱くのか。
なぜ見えているものにでさえ誤解が生まれるのか。
なぜ言葉で確認しているのにすれ違ってしまうのか。
なぜ必要と不必要があるのか。
なぜ同じ失敗を繰り返すのか。
なぜ食事をし、睡眠を取り、適度な運動をしなければならないのか。
なぜ生まれることを望まれるのか。
なぜ生まれることを望むのか。
なぜ否定されてしまうのか。
なぜ人には役割が課せられるのか。
なぜ人の目を見ることは出来るのに、覗きこまれるのが苦手なのか。
なぜ涙が出るのか。
なぜ笑ってしまうのか。
なぜ悲しくてたまらない時に笑ってしまえるのか。
なぜ人の気持ちが分からないのか。
なぜ分かり合おうとするほど距離が出来てしまうのか。
なぜ死ぬことと別れることは同義なのか。
なぜ波の音を聞くと眠くなるのか。
なぜ夜はあんなに煩いのか。
なぜ春はあんなに静かなのか。
なぜ枯れると分かっていて花を摘むのか。
なぜ人の幸せを願わないと生きてはいけない気がするのか。
なぜ苦しいのか。
なぜ人の涙を見ると謝りたくなるのか。
なぜ人を傷つけてしまうときがあるのか。
どうして、これらのことを考えてしまうのか。
どうして、これらのことを当然として飲み込むことが出来ないのか。
どうして、考えることを止めることに不安を覚えるのか。
どうすれば、ちゃんとさいごまで自分でいられるだろうか。
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