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いっぺんに編集したい…orz

「気の優しい」ではなく「気の小さな」をチョイスするところが義妹さまクオリティ(キリッ


双頭の鷲 編

002.灰色の証

057.約束が窓を叩く

029.鈴なりの秘密

067.凍える闇を越えて

095.双子たちの再会
029.鈴なりの秘密
 


 焼け出されてしまった宿屋から少し離れた宿に泊る。…と見せかけて町から離れた場所に野宿の用意をしている。
 さすがにあの火事を目の当たりにして町の中に泊る度胸は無かった。
 宿代は勿体ない気もしたが、そこはソレンティアの持ち分になるらしいので全員特に気にしていないようだった。便利だな。

 「そういえば、あいつと連絡取れてるのかよ?」
 「…いや、全く」

 おいおいだいじょうぶかよ、とトムと大介のやりとりが聞こえる。どうやらこのパーティにはもう一人メンバーがいるようだが、昨日から合流してから私は一切見かけていない。
 ホームであるはずの宿屋を焼け出されてしまっているわけだが、大丈夫なのだろうか。
 というか…

 「そういえば、一体何のクエストで滞在しているのかね?」

 トムと大介だけ町を離れていたり、いまだに一人いなかったり、みんな一緒のクエストでは無いように思えた。
 4人は顔を見合わせてから、「ええーと」とカイトが切り出した。

 「僕とキールさんは討伐クエストだったの。この町の近くにある小さな村なんだけど、そこで狼の異形が頻繁に出るから討伐してくれ、て言われていたの」
 「…よもや一番遠いだろうと思っていたクエストを持っていたのだね」

 まさかカイトが討伐クエストを持っていたとは予想外過ぎた。いやもう一人が馬鹿力だということはさっき分かったので、カイトはフォロー役であるとは分かったのだが。

 「俺たちは鉱石採取のクエストだよ。少し南に行ったところに希少な鉱石を含んだ断層があって、そこで採取された鉱石を幻薬に使いたいって、これはソレンティア自体から出ていたクエストだったよな」
 「そうそ、で、キールたちがこっち方面でクエストがあるっていうから一緒に付いて来たんだよな」
 「後一人は?」

 続けて私が聞くと、再び4人は顔を見合わせて、今度はそのまま首を傾げた。

 「さぁ?あいつは一人で勝手に付いてきて勝手にどっか行っちまってるよ」
 「……単独行動ということかね?」
 「まあそうだな」

 荷物も持ってっちゃってるしな、と大介は言った。あの火事が合ったので幸いなことではあるが、荷物も持って行ってるということは本当に完全な単独行動だな。
 連絡が取れなくても特に困ることはなさそうだ。そのままソレンティアで落ち合えばいい。

 「カイトの討伐は終わっているのかね?」
 「うん?うん!終わってるよ」

 ねー、とカイトはキールに同意を求め、ねー、とキールは淡々とカイトに相槌を打った。

 「それで、」

 ランプを置いた隣の地面を指先で叩いて、トムが注意をひきつけた。

 「さっきの話しの続きだけれど、さっきの追手が商人だけの依頼では無いというのは、どういうことだ?」

 トムの質問は私へのものだった。私はそのまま地面に座っているとランプの光が眩しいので、大介の肩によじ登っていた。
 定位置に座り、トムを振り返る。

 「2つの要件があるということだよ。
 1つは私への要件、もう1つはブラックマン、君への要件だ」

 私は真っ直ぐ彼を見つめた。そう、あの追手は私を追っていたばかりではない、トムもまた標的の一人とされていたのだ。

 「あの商人はあの荷馬車では気付かなかったのかもしれないね。君がトム・ブラックマンであることを」
 「ど、どういうことだよ…?!」

 混乱した大介が口を挟んだ。その気持ちが分からないでもない。
 明快にしよう、鈴なりのように秘密を隠していても仕方ない。

 「あの商人はトム・ブラックマン、君のその銃を狙っているのだよ。双頭の鷲のもう片方をね」
 「まじか」

 さして驚く風でも無くトムは零した。ぎょっとしたのはやはり周りにいる大介とカイトだった。

 「えええ?!どうしてどうして?!なんでトムさんが持っていることを知っているの?!」
 「ホントだよ!トムが有名ならまだしも、こんなそばかすの持ってる持ちもんなんざ誰も興味ねぇだろ!」
 「おーぃ大介、てめぇ後で覚えとけよ」

 ランプの下からの光に煽られて見えるトムの微笑みに、大介は「ひ」と声を挙げた。
 私はその大介の言葉に、軽く眉を上げた。

 「なんだブラックマン、君、彼に話してないのかね」
 「言う必要もねぇと思ってたんだよ」
 「それだけかい?」
 「てめぇ、何が言いたい?」

 途端に凍りついた私とトムの間の空気に、それまで騒いでいた大介とカイトが黙り込んだ。何事かと私たちを窺っている。キールだけがさして興味も無さそうに4人を眺めていた。
 私はトムに視線を投げた。言っていいのかどうかの確認をしたのだ。彼は目を伏せた。よしの合図だろう。

 「ブラックマンは"裏"稼業では名の通った狙撃手だよ。西の方の大きな組織に属していてね、公式には出てないが、一部では懸賞金を掛けられてもいる」

 え、と。本当に驚いたように大介は言葉を失った。

 「ホントか、トム…」
 「本当だ」
 「ソレンティアはその性質故に治外法権的な場所だからね。ソレンティアにいる間はブラックマンの罪状は問われな」
 「てめぇは黙ってろ!」

 大介に怒鳴られてしまったので大人しく口を噤む。
 ぎらりと音がしそうな目で、大介がトムを睨んだ。

 「何で今まで黙ってたんだよ」
 「言う必要があったか?」
 「必要があったとかなかったとかじゃなくって!なんでそんな…他の人間から聞いたら誤解を招きそうなことをお前から聞けなかったんだよって言ってんだよ!」

 「あー…」と、トムは罰が悪そうに後ろ頭をがしがしと掻き上げた。

 「悪いな。そんなに重要なことじゃねぇと思ってたんだよ」
 「重要だろぉ?!」
 「重要じゃねぇよ」

 そうしてしれりと赤毛の男はのたまわった。

 「言っても言わなくっても、俺はお前の相棒になってたし、お前も俺の相棒になってたよ」

 な、とトムはへらりと笑った。
 その笑顔にぐぬぬ、と大介は言葉を詰まらせ…ているところを見ると、おそらく図星だったのだろう。

 「いきなり相棒が懸賞金掛けられてると知らされる身にもなれよ…っ」

 辛うじて大介がそれだけを言えると、トムは「わりぃわりぃ」と笑いながら彼の背中を叩いた。

 「…で、どうしてブラックマンが双頭の鷲を持っているのをその商人が知っているんだ?
 いくら有名どころと言えど、その所持品までは確実に分かってはいないだろう」

 キールが話題を元に戻した。再び静かな緊張が場を支配する。
 確かにそうだ、と大介とトムが私を見た。
 私は非常に単純で明快な回答を返した。

 「前に私が教えたからだ」

 間違いない。「おぃいいいいっっ?!」
 盛大に大介が突っ込みを入れた。

 「お前かよ!言えよっ!そこは大事だろうっ!!」
 「ブラックマンが持っていると言っただけで彼の容姿については何も伝えてなかったのだよ。だからまさかブラックマンが標的にされるとは思わなかったのだよ」
 「あぁ、そこでもう一つの要素が出てくるわけだな」

 納得とばかりにキールが頷いた。そうだ、ここで今度はトムの要件が出てくる。
 私は再びトムに視線を戻した。

 「君の同業者が、あの商人に付いている」




 あの火事は演出だ。トムに「お前のことは知っているぞ」と伝えるために、つまり、お前と同業者だと誇示するために仕掛けられたものだ。

 「随分と主張の強い暗殺者だな」
 「暗殺が目的じゃなさそうだね。報復とか、嫌がらせとか、そんなところじゃないかね」
 「いやな当たり所なんだけど」

 キール、私、と推測して行ったものを、トムが心底嫌そうな顔で拒否った。

 「その人が、トムさんのお顔とかを知っていたってことなの?」

 それまで黙っていたカイトがおそるおそるといった感じで質問した。そうだ、と私はそれに返した。

 「そいつが元々商人と組んでいたのか、はたまた途中から手を組んだのか、君の容姿を伝えて狙い始めたのだろうね」
 「支援者としたんだろう。おそらく後者の途中から手を組んだ、てのがいい線だろうな。
 でなければ荷馬車の時にもうちょっと反応があったはずだ」
 「だろうな。あのときあのおっさん、トムにしがみついてたしな」

 異形も怖いが"裏"の狙撃手も恐ろしい。
 そこで私は思い出した。

 「そうだ、君、荷馬車のときにもおそらく狙われていたよ」
 「へ?…あ、あのでっけぇ奴か?」

 そうだ、と私はもう一度頷いた。
 あの巨躯の異形の狼は、明らかに人為的に呼び出され、明らかにトムを狙っていた。おそらくトムを狙うために呼び出されたものだったのだろう。
 繋がって来たなぁ、と大介が関心とも呆れとも取れるため息を吐いた。

 「それで…肝心のそのブラックマンを狙っている人物は分かるのか?」

 そして再び、キールが話題を戻した。ちょいちょいと話しがずれて行ってしまう私たちにはなんとも頼りになる人物だな。
 キールの質問に、トムが考え込んだが頭を振った。

 「いや、心当たりが…あり過ぎて…」
 「だよな」

 トムの申告に大介が納得とばかりに頷いた。こらこら、そこで納得しちゃだめだろう。
 二人の様子を見ていたキールがふと大介の肩にいる私を振り返った。

 「お前は分かっているんじゃないのか?
 ブラックマンを狙っているのが商人だけではないと言っている時点で、相手が分かっているものだと思うのだがね」

 鋭い。
 4つの視線が刺さる私は、努めて平静を装った。

 「そうだね、分かるとも」
 「じゃあ解決じゃねぇか、そいつを教えてもらってさくっと撃退すれば」
 「なぜ」

 私の問いに、大介が固まった。
 なぜ。

 「私はこのまま逃げ続けてソレンティアまで戻ることをお勧めするね。
 余計な衝突は避けるべきだ」
 「このまま無事に逃げられると思うのか?今だって火事で焼け出されたじゃねぇか!」
 「正面衝突するよりはマシだよ」
 「何に対してマシなんだよ!」
 「世界にだよ」

 しん、と静まり返った。その目が、先ほどまでと私を見る目の温度が違う。
 おそらくここが、私たちと彼らの境界なのだろう。
 私は大介の肩を降りて4人を見上げた。

 「召還をする人間なのだよ、相手は。しかもちゃんと呼び出すことが出来ない。
 なまじ呼び出される方が世界には影響が大きい。そんな相手と衝突したらどうなるのか。
 濫発は困るのだよ」
 「じゃあどうしろってんだよ、今はソレンティアに帰れたとして、その後は?
 その後もこうして逃げ続けろって言うのかよ」
 「そうしてくれればいいけれど、だから、私はソレンティアを辞めろと言ってるのだよ」
 「ソレンティアを辞めてどうする?!ソレンティアに帰れって言ってるのはそこが安全だからだろ?!そこを辞めろって」
 「つまり大人しく死ねってことか」

 ずばりとキールが切った。私は苛立った。

 「あぁつまりし」
 「だめだよぉおおとらくううううんんっっ!!!」

 すべしゃぁぁ

 私は轢かれた。泣き声と共に盛大に。

 「そんなこと言っちゃだめだよぉっ!みんな仲良く!たのしく行こうよっ」
 「ええ…とー…」

 どちらさまでしょう、と大介の遠慮がちな声が聞こえた。
 私を轢いたのは青く長い髪の、白い翼を持つルーメペンナリアンの女の子だ。どこから降って来たのかと言えば、虚空から、と答えよう。

 「ご、ごめんなさいっみなさん…っ!と、とらくんまだサイハテ出たばっかりであんまりこっちのことよく知らなくって、あのそのっ、悪い子じゃないんですぅぅっ
 ちょっとツンツンしちゃってるけど、気を張っちゃってるだけなんですっ!ホントは泣き虫さんで気の小さな子なんですぅっ」
 「やめてっお願いクオンちゃんやめてっっもうそれ以上は勘弁してっ!!」

 破壊力抜群の発言をぶちかましていく彼女の腕にしがみついて、俺は懇願した。

 「あー…えーとー…」
 「やめろっそんな気まずそうな目で見るなっ!記憶から消してくださいっ」
 「うん、キカナカッタコトニスルカラ、とりあえずそちらの女の子の紹介をしてくれないか」

 途中なぜかトムの声がカタコトに聞こえたような気がしたが、続いた言葉にはっと我に返ったのは彼女の方だった。

 「あ、ごめんなさい…っ!ボク、クオンって言います!
 七賢人の6番目、"謡う翼"の一翼です」
 「な」

 んだってぇぇぇ?!、と絶叫したのはもちろん大介とトムとカイトだった。
 そしてもう一人どこからともなく、「…すまん、妹が」と、ホントに遠慮がちに入って来た茶色い羽根の、キールと同じオッドアイを持つルーメペンナリアンの青年が、"友愛"の翼のもう一翼だった。
 まず間違いなく賢人に見られない二人が、何故だかここに揃っていたのだった。



 「なんでお義兄さんがここにいるんだよー」
 「お前ホントその呼び方止めろ、初対面の相手にどんだけ誤解させるつもりだよ」

 とある流れでこの茶色い羽根の青年をお義兄さん呼びにしてしまってからずっとそう呼んでしまっている。ので、今さらブラディウス、という立派な名前で呼ぶ方が違和感が出来てしまった。

 「お前がこの間、こっちに強制顕現させた召還獣がいるだろう?
 あれの影響調査だよ」
 「え、あれちゃんと調査までしてなかったか?」
 「とらが調査したのは相手が召還した分だろ。とら自身が召還した分については行われてない」
 「あれって俺の分もするの!?」
 「当然だろ!お前自分が世界に影響与えてねぇとでも思ったか!」

 まさに雷を打たれた様な衝撃を受けますた。
 あ、なんだか背中に刺さる視線が痛い、3つくらいの視線が痛い。
 振り返ると俺の気のせいだったのか、こちらのやりとりをどこか遠い目で眺めている4人がいた。その目はその目でなんだかやるせないものがある。

 「…だいじょうぶか??」

 ぱたぱたと大きく腕を振って4人の注意をこちらに向けさせた。

 「あんまり大丈夫じゃなさそうだぞ。事態に上手く付いていけないようだ」

 一番先にこちらを見たキールが、他の3人の様子を窺って返した。

 「賢人が何故3人も揃っているのだ?」

 そんなに事態は深刻なのだろうか、という不安が4人の顔によぎっていた。俺はぱたぱたと手を振ってそれを否定する。

 「そこまで深刻じゃない。深刻じゃないけど」
 「と、とらくんが心配で心配で…っ」
 「というわけだ」

 俺、クオンちゃん、お義兄さんと来た回答を、4人はとても生温い笑顔で受け止めました。

 「いやいやいやっどこの授業参観だよ!?賢人ってこんな緩い奴らなのか?!」
 「ちょ、おま…っ 緩いって言うな暖かいって言っておいてあげてっ」

 いきなりぶった切った大介に思わずそっとフォローを入れてしまった。
 しかしそこは賢人の賢人たる器の広さと言うべきなのか、はたまた単に聞いてなかっただけなのか、お義兄さんが頬を掻きながら返した。

 「んまぁ、確かにそれだけじゃないっつーかだから言ってるだろお前の影響調査だっての」
 「いたいいたいたいっ!ごめんなさいそんな認識無かったんだよっ」
 「覚えとけ、賢人の影響調査は他の賢人しか出来ないんだって」

 ぐりぐりと頭を押し付けられながら俺は教えてもらった。
 そこへカイトが「あのぉ」と手を上げた。

 「えいきょうちょうさ、て、何の調査なんですか??」

 あれ、と言ったのは大介たちの方だ。

 「カイト、知らないのか、異形の討伐に伴う影響の話し」
 「う、うんー…言葉だけは聞くんだけど、ちゃんとは知らないの」
 「おいおい、今時の冒険者はどうなっているのかね、ちゃんと討伐クエストに伴う知識を持ってからこなしたまえよ」
 「自分の影響を度外視したてめぇに言われたくねぇよ」

 大介と軽いジャブの応酬をしてから、俺はカイトに説明した。

 「異形はどこから出てくるか知ってるかね、カイト」
 「大海なの!」
 「そう、大海だ。さて、大海とこの私たちが今いる世界、朝とは別の世界だね。
 大海から朝にかけて抜け出してくる異形は、一瞬でも二つの世界を結ぶ中継点になるわけだね」

 ここまでは大丈夫か?とカイトを窺うと、なんとか、と頷いた。

 「よろしい。
 異形はこちらで討伐されると大海に戻る。そのときもまた同様に中継点となるね。
 もし、これがあまりに頻繁に繋がれるとどうなると思う?」
 「う、ううん…とー…
 二つの世界が繋がっちゃう、の、かな…??」
 「その通り。繋がるどころか、世界の境界が曖昧になってしまいかねない。
 境界が曖昧になれば、大海にある魔法の源が朝に流れて行ってしまって、朝の世界がどえらいことになる、ていうのは想像がつくかな?」

 大変だ、とばかりにカイトは激しく頷いた。いい子だ。

 「だから、冒険者は討伐クエストをこなすと影響調査を行わなければならない。調査を行って、その報告を中央に上げるんだ。上がった報告は中央から定期的に私たち賢人に上がってくる。
 そして危ういところがあれば、私たちが境界を修復に行くんだよ」
 「へぇぇぇ…っ!そんなところで賢人さん達にお世話になってるんだね!」

 目を丸くしているのはカイトばかりでは無かった。

 「意外に事務的なのな、賢人も。もっと俗世を離れたところにいるもんかと思ってた」
 「別に霞みを食ってるわけじゃないからな」

 大介のやはり身も蓋も無いコメントに、お義兄さんが苦笑しながら返した。
 賢人が見張っているものはこれが全てなわけではないが、身近な報告が私たちに上がってくるというのが実感を伴って近しく感じたのだろう。だが、その報告は非常に重要なものであることには変わりない。
 だから報告はきちんとね、と俺が言うと、大介が冷めた目で見やった。

 「それでね、とらくん、ボクたちから一つお願いがあるんだ」
 「うん?」

 ひょい、とクオンちゃんに拾い上げられた俺は、彼女の赤い瞳を見つめ返した。

 「とらくんが無理やり権限を剥がして来ちゃったお人の、全部の権限を消しちゃってきて欲しいんだ」
 「え…とー…、この間削除してきたけど?」
 「うん。でも、それはとらくんに剥がした権限をもう一回作成するためだよね?とらくんの実行が終わればまたその人に権限が還っちゃうよね?権限を解放しちゃうから」
 「うん、そうだけども。…え、ホントに削除しろって言ってるの?」
 「うん」

 つまり、二度とそいつが大海から何かしらを召還することができないように、大海から魔法として力を抽出できないようにしろ、と言っているのだ。
 暗殺者として魔法が使えるということがどれほどメリットのあることかは知れないけれど、意外に(?)賢人はエグイことをしてくれる。

 「だからとらくんっ!このままソレンティアに帰らずに、みんなと一緒にトムくんを助けてあげられるねっ!」

 そして目の前のクオンちゃんの目は、そんなエグさも知らないような輝きで満ちている。
 後ろで俺の目から視線を逸らしたお義兄さんがその分を背負っちゃっているようだ。

 「なのでみなさん…っ おせわおかけしますが、とらくんをよろしくお願いしますっ」

 ぺこっ!と俺を抱えたまま頭を下げるクオンちゃんに、賢人からの頼まれごと以上に断ることも出来ないような面持ちの4人を見上げて、

 「…すまない、もう少し付き合せてくれないか」

 俺が言わないわけにもいかないだろう。



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そんなこんなで無事退院しますた。 HOME 人生の岐路に立たされたようだ