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<はるのなかではおしずかに>

はいいろのいんぼう

るらんどりーめらんこりっく

のいずのまじったひるさがり

なぜひかりをわすれたのか

かなしいうそをつきましょう

でんわのむこう、ひかるかげ

はなむけへのたむけ

おしらせ:とうとうきました

しゃんぐりらのゆめのゆめ

ずるいよきれいすぎて

かいだんかけあがるかぜ

にわかあめのあと



お題はいつものこちらから
 http://www1.odn.ne.jp/~cad87370/na/index.html

 目の前が白く光った。
 頬を撫でた風が暖かくて、あぁこれは春風なのだと気付いた。





 目を開けるとそこは暖かな日差しが降り注ぐ、穏やかな草原だった。
 遠くに青い峰が見える。空は突き抜けるように青いけれど、冬の厳しさも夏の積極性もなく、穏やかに包み込むように広がっている。
 足元にはちらほらと色とりどりの花が咲いていて、まるで緑色のキャンパスに絵の具を点々と置いたように広がっていた。

 ふと、人の気配を感じて横に目をやると、そこに幾乃がいた。
 驚いて思わず声を掛けそうになったが、少し様子がおかしい。ずっと遠くの1点を見つめて動かない。その彼女の周りに一匹の青い蝶々が飛んでいる。
 …あぁ、これは"いつかの思念"なのだ。
 きっと彼女もかつてここに来て、強い想いを残していったのだろう。それがまだ、ここに存在しているのだ。
 幾乃の表情は穏やかだった。まるでここの陽気のように暖かく、安堵に満ちていて、その黒い瞳に何かしっかりと、決意のような意思を見せていた。
 彼女が見たのはこの先の、ちょうど青い蝶々がひらひらと飛んでいるところだ。

 僕は蝶々の方へ歩いた。
 やがて見えたのは、草むらに眠っている二人の小さな子どもだった。

 「…なんだこれは…」

 目の前に広がる光景に、僕は思わず呟いた。

 一人は真っ白で長い髪の女の子だ。腕に付けている腕輪以外に身に付けているものが無く、長い前髪の間から小さな角が2個覗いている。
 もう一人は黒くて短い髪の男の子だ。ゆったりとした大陸の少数民族が着ているような民族衣装を着ている。
 二人はしっかりとお互いを抱き締めあっていて、その表情はどちらともとても安らかだ。
 足りないものなど何もないと、言わんばかりだ。

 「人を…精神削ってまで追いかけさせておいて、てめぇは呑気に午睡だと…?」

 幸せを形にすると、こうなるのではないかと思えるくらいだった。
 不本意なまでに、見ているこちらも幸せになれるような光景だった。

 「ふざけるなっ!!!」

 僕は男の子の胸倉を掴んで叫んだ。

 「起きろっ!いつまで寝ていやがるっ!!
 てめぇが残してきた世界に戻れっ!もう十分だろうっみんな無くなった、みんな分かってしまったんだよっ!
 お前がもう、元の世界に戻るつもりが無いってことは!」

 雨の中の紗希の笑顔が脳裏をよぎる。
 かつての記憶の高柳と日野の言葉が蘇る。
 山本の母親の墓の前で誓った、遠い未来の約束が木霊する。

 こんなにも暖かくて眩しい世界があるというのに。

 「どうしてお前だけ…っ」



 越えられない壁の向こうに、あぁ花が咲いている。
 僕には触れられない花が咲いている。



 僕は泣いていた。
 どうしようもなく泣いていた。

 「…せめて声を掛けろ、僕じゃない、お前を待ってる人がたくさんいるんだ。
 ----起きろっこの野郎っ!!」

 僕は叫んで腕を振り上げ…
 …ようとしたところで、その手をそっと掴まれた。白い、小さな手に。
 は、と視線を向けたその先に、白い女の子の"崩れた"黒い双眸が僕を見つめていた。



 「はるのなかではおしずかに」



 小さな唇が声なき音を紡ぐ。
 そうして再び、僕は白い光の中に放り込まれてしまった。













 白い光の中で、僕はハッ、と辺りを見回した。
 酷い焦燥感だ。胸が息苦しいくらい鼓動を打っている。

 「どこだ…っ」

 まだいるはずだ、まだ、消えてないはずだ。
 早く見つけないと…っ!

 ふと、綺麗な鈴の音が聞こえたような気がして、僕はその方向を振り返った。
 そこに彼女はいた。白い髪と肌は少しずつ"崩れて"いっている。ほろほろと小さな身体から小さな破片が落ちていっていた。
 僕は慌てて彼女の方に手を差し伸べた。

 「あぁノノト…っ!早くこっちに来い!
 僕は」

 僕は君を繋ぐために生まれた。
 アァ私ノ可愛イ娘。


 僕はそのとき、本当に、心の底からそう思っていたのだ。


 しかし、ノノトは笑って首を振った。
 そうして小さな唇が動く。「   」
 僕は。
 僕は初めて、そこで自分の名前を貰ったような気がした。

 僕はただ、君を繋ぐためだけに生まれた、そのはずだった。

 差し出した手を受け取るはずだった彼女の身体は既に半分以上が崩れていた。
 僕は、"僕"としての僕はもうそれを見守ることしかできず、両目からとめどなく涙が溢れていた。
 悲しいのではない。
 けれどおそらく、嬉しいのでもない。
 僕では無い誰かの感情がないまぜになったまま、やがて、しかしこの涙は僕のものになるだろう。

 「ノノト」 ありがとう。

 そう言うと、彼女は残った片目でにっこりと笑った。
 彼女の最後の欠片が崩れた。


 ずるいなぁ…、僕と全く同じ顔をしているというのに。
 彼女は最後まで、この上なく美しかった。




 唐突に、足場のない足元から埋め尽くすような無数の青い燐光を放った蝶々が湧きあがった。
 それは遠い遠い昔から積っていた何かを解放するように、やはり遠い遠い天上へと昇って行った。
 僕はそれを長い間、立ちつくすように眺めていた。
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