入院して一番噛み締めた幸せてお米が食べれる、てことですよね。ホントにとらみたいな生活でした。きっとギアさんはいっつも7分粥を作ってくれたんだ…練り梅もお願いします。
病院食って薄くって少なくって、て思ってたんですが、意外にお腹いっぱいになりました。トマトソースみたいなのが出て来たときあったんですが、そのときくらいですかね、「あ、うす味なんだー」て思ったのは。
というか、最近気付いたのですが、とらこは結構味オンチなのかもしれません。というか、おいしいとか不味いとか、てよりは、好きなのか嫌いなのか、て方が強そうです。あ、でもレバ刺しはおいしいの食べてみたかったなー…
「一人の女の子として、好きなんだ」
君が言う好きと自分が吐く好きは違うのだろうかとか、親愛と恋愛の違いが分からないんだとか、なんだかんだ言いながら、奴は気付いていたのだ。
許嫁に向ける気持ちと、蝶々の女の子に向ける気持ちが同じものだったと言うことに。
少なくとも、蝶々の彼女に向けた言葉のいくつかは、幾寅が紗希に言いたかった言葉だった。
馬鹿なやつ。だから僕が貰った。あいつは要らないんだ、あの綺麗な手を取らなかった。だから僕が貰う。
そうだ、愛する、という言葉が代表する意味合いで、僕は紗希のことが好きなのだ。
あいつが蝶々の彼女に向ける気持ちと、僕が紗希に向ける気持ちは同じだ。
けれどあいつは気付いていなかった。
紗希が幾寅に向ける気持ちは、僕が紗希に向ける気持ちによく似て、非常によく似て、それは人間の遺伝子とチンパンジーの遺伝子くらいよく似て、しかして完全に異なるものだ。
あいつはおそらくずっと気付かないままだろう。
僕だって考えて考えて考えて、おそらく、という程度に気付いたことなのだから。
紗希が幾寅に向けていた感情は、幾寅がダークエルフの彼に向けていた感情と同じだ。
この気持ちを何と言おう。
残念ながら僕にはその気持ちを向け得る対象がいないので、かつての幾寅の感情から推し量るしかないのだが(そしてこの言い回しが既に矛盾を孕んでいるのだが)、なんとも言い難い。
愛に似て愛だけでなく、回帰を望みながら独立を願う。不足しているわけでは無くてそれ以上があるのだ。
満ち足りているのだ。それだけは間違いない。
智詩の推測した理由とは違えど、私は確かにそろそろ動くつもりでいた。私には私の合図があり、それが今日、降りたからだ。
思いがけず智詩からイネの居場所を聞けて重畳であることはあった。
私は智詩といくつか打ち合わせて解散した。智詩がいなければ春兎に頼もうと思っていたのだが、その必要もなくなったようだ。よかった、春兎をあまり危ないことに付き合わせたくない。
僕は誰もいなくなった居間で、今朝の新聞をもう一度確認した。そこに、僕の合図となる最後の右家配下の当主の名前があった。
藤本の記憶喪失の記事の被害者として。
ここに至るまで5年。
間違いないだろう。
一連の市岐の関係者で、一番深く市岐を憎んでいるのは、市岐跡目の幾寅だ。
怨念めいたものを感じていたのだ。このなぶり殺しのようなやり方に。
5年間かけて各当主を追い詰めて記憶を消していく。イネとソレンティアの魔法使いの力を持ってすれば5年もの時間を掛けずとももっと早い時間で決着が着いたはずだ。
そう、魔法の理を理解しているならば、一瞬で、片などついたはずである。
しかし奴は直接記憶を消して回った。忍び寄る影の如く近寄り、他の残る当主と配下の信者に対して見せつけるかのように奪って行ったのだ。
これを復讐と呼ばずして何と呼ぶのか。
降り積もったものがあまりに静かだったので、当人でさえそれが"怒り"であったことを知らなかったのだ。悲しみと誤解さえしていたのだ。
彼の根底にあったのは悲しみではない。悲しみによく似た、雪のような、深く冷たい怒りだ。
「完璧だよ」
ふふ、と僕はテーブルの上に鎮座するエウブレウスに向かって声を掛けた。「そう思わないかね?」
エウブレウスは僕にちらりと視線をくれるだけで沈黙していた。同意しかねるのか、肯定の意思なのか計りかねたが、僕にはどちらでも構わなかった。
イネさえも巻き込んで、あの赤毛はやってのけた。
自分の手を下さずに"市岐の者たち"で、市岐を崩壊させたのだ。
徹底した市岐への憎悪は、おそらく本当に市岐の人間に、智詩や紗希や、幾乃にまで及んでいたのだろう。守っているようでどこか突き放したような感があるのはそのためだ。まるで彼と雨傘のように。
それでもあいつは言った。「だいじょうぶ」だと。
「収まるべきところに収める」のだと。
世界は一方的なご都合主義で出来ている。
あぁ確かに奴は収めるだろう。
僕と言う"余ったピース"を使って。
僕が何をしなくともおそらくこの物語は終わる。見事なまでに整った状態で終焉を迎えるだろう。
それを黙って見ているような僕ではない。
誰がそんな"都合よく"収まってやるものか。
「エウブレウス、僕は幾寅の思惑通りにはならない」
「あぁ、それでいいぜ」
「…結局は思惑通りになるからか?」
「誰の思惑通りにもならず、誰もの思惑通りになるんだよ」
「世界みたいなこと言わないでくれ」
僕は嘆息を吐いた。
いつの間にか外の不安定な雨が通り過ぎ、灰色の雲間に青空が見えていた。
気付けば夏の名残りの蝉の声が遠くから聞こえてきて、まるでノイズのように僕の思考を掻き混ぜて行った。
正直何を言いたかったのか途中で分からなくなったです(´・ω・`)ショボーン
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