あの診断は笑ってしまうくらい的確ですよな。他の方の診断を見ても「ああそんな感じそんな感じw」て。とらはそんなに面倒くさがりかと思ったのですが、あれはおそらく私です(笑)
同じ星を見ても、「遠い寂しい」ではなくて、「なんか手を伸ばせば届くんじゃないか、脚立持ってこようかな」と受け止められる感覚を、学校で得られたのではないかと思います。
僕はまさに歯噛みする思いでその背中を見送った。
今に見ていろと、下品にも思わず中指を立ててしまいそうだった。
まぁ、いい。
僕は深く息をつきながら、ウェパールにかかっているだろう智詩へ歩み寄り、肩を揺さぶった。
「おい、大丈夫かね?とりあえず起き」
ろ、という声は突如掛かった凄まじい地球の引力によって奪われてしまった。
後ろで聞こえた誰かの僕を呼ぶ声で、なんとなく自分がどのような状態なのかを知り、更に視界の端に捉えた智詩の姿に、僕は飛び起きた智詩に地面に引き倒されたのだということが分かった。地球の引力では無かったようだ。
山本のヴィンクタスペンナは解除していなかったため春兎が駆け出そうとしたが、直後に智詩の領域が山本ごと2人を覆った。
「解くべきでは無かったね、春兎。
そこを動くなら俺は君たちを潰す」
智詩の言葉に春兎が返すことはなかったが、淡白な表情を僅かに歪めているような春兎の顔がよぎった。
よもや智詩から危害を加えられる可能性など考えなかったのだろう。僕だってびっくりだ。
「君が灯なのかな?」
「だとするならばどうしたいのかね?
僕を殺してもアレは元には戻らんぞ」
うつ伏せのまま僕は返した。びっくりだが…この男に脅威などない。
彼はただ知りたいだけだ。
「殺すかどうかは横に置いといて、そんな覚悟を決めるより先に君に教えて欲しいことがあるんだ」
「半分、奇遇にも僕も同じ気持ちであるよ。しかし僕には教えることなど一つもないがね」
「君に必要が無くても俺にはあるんだよ。
灯、"一体何があった"のかな?」
そして僕は、その問いが大嫌いだった。
「5年前の春に、とらに何があったのかな?」
「自分で調べたまえよ」
「今こうして調べているのさ」
「答案用紙の裏面に喋りかけているようなものだな」
「君が答えであることに変わりないようでよかった。正面を向き合ってみようか?」
ふ、と抑えつけている力が軽くなったので、僕は素早く抜け出そうとしたが腕を取られて再び、今度は背中を打ちつけられて地面に縫い留められた。
この野郎、容赦ないな…っ!!
「5年前、とらが消えて君が現れた。幾乃ちゃんが君を紗希に預けたらしい後に俺は彼女に会っているんだ。そこで君のことを教えて貰ったよ。
"全部、灯が知っている"とね。
君は"誰"なんだい?」
「誰も何も、僕は僕だ。君こそ、5年前に知っておいて今さらじゃないかね!」
智詩の手の下でもがきながら反論すると、彼は「だからどうした」と言わんばかりに眉を上げた。
「君の居場所は割れていたから。先に行方の知れないとらを探しに行ってたんだよ。
実際会ってみたらあの通り。まともに話もできやしない」
「それで僕のところに泣きつきに来たってわけかい。
アレは話が通じないだろうが、僕は話す気が無いね!」
じりじりと隙を窺っているらしい春兎の動きを警戒しつつ、なおも抵抗する僕に智詩は僅かに双眸を細めた。
「灯、君が"とらの記憶"を持つというのが本当であるなら知っているはずだ。
俺は幾寅の"正体"を知っているよ。"だから"、俺はこうも考える」
きみがいくとらなんじゃないのか?
智詩の問いに僕は……、……こて、と脱力した。「………」
ぼそぼそと僕は呟く。彼に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で。
僕の言葉を聞き取ろうと彼が頭を寄せた。
のを、逃さず、
「 ビ リ アル っ !!!!」
大音量での宣言と同時に智詩に頭突きをかました。
予想外だったのか頭突かれた智詩は大きく仰け反って、その隙に僕は下から抜けだして追撃をかけようとしたが、そこはさすがに後退で回避されてしまった。
衝撃にくらくらするのか頭を押さえて下がる智詩を、僕は思い切り睨みつけた。
「よくもそんなことが言えるものだな、智詩!とんだ妄想だっ!!
"僕"は"僕"だっ!!
それが分からない君に話すことなど一切ないっ!!」
智詩に叩きつけるように叫ぶと、小さな金属音にも似た音を立てて智詩を領域が覆った。
は、と視線をやれば、春兎が智詩に向けて言う。「この場は引いてください」
智詩は春兎を見やると軽くかぶりを振って、僕を振り返った。
「…ごめんな。今、すごくあの人の気持ちが分かった気がする。
君を怒らせるつもりではなかったんだよ」
そんなこと知っているとも。
しかし僕は彼を許してやれるほどに、今この場で、心に許容量など無かった。
僕はまさに忿懣する如く拳を握りしめ、夜闇に消えるその背中を見送った。
「すまん、春兎。助かった」
「ううん。智詩さんが灯ちゃんから離れるまで展開できなくってさ。遅くなってごめんね」
ふるふると頭を振って春兎が控えめに返した。僕は春兎の腹をぽす、と叩いてチャラにさせてもらい、山本の緊縛を解除した。
「解くのが遅くなった。緊張が続いたろうから少しストレッチを……何かね?」
魔法を解いたというのに動かないまま僕を見下ろす山本を、僕は訝しげに見上げた。
ああなんだか、その目は知っているのだよ、山本。
しかし言うな。それを言うな。
山本の唇が開く、分かってる、君の言いたいことは分かっているとも。
分かっているが。
「……とらなのか?」
分かっていることと我慢が出来ることは全く別物だ。
僕はキレた。
(つづくよ → かなしいうそをつきましょう 後)
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