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あまり後ろをガッツり決めないで書いて行こうと思ったのですが、やっぱりある程度ちゃんと決めないと書きにくいのですね。
なので今回書いてく中で後ろの方を固めてしまいました。
前回と空気が違うかもしれませんが…ていう話は1話目に書くべきでしたね!



双頭の鷲 編

002.灰色の証

057.約束が窓を叩く

029.鈴なりの秘密

067.凍える闇を越えて

095.双子たちの再会
095.双子たちの再会



 白い壁が立ち並び、比較的広い道を歩く男がいる。黒髪で痩身の長躯だ。一見雑踏に紛れてしまいそうな顔立ちや雰囲気や、服装も動きやすそうなさっぱりしたものだが…
 男は不自然に左足を引き摺っていた。どうやら負傷しているようだ。
 日は高く、まだ昼を少し過ぎたばかりだ。通りを2つ程入れば賑わいのある大通りに出られる。今日は公休日だ。大通りはこの細い通りにも聞こえるくらい賑やからしい。
 男が歩く細い道は高台の高級住宅街に通じている。この先に彼の滞在している屋敷があるようだ。右手には紙袋を抱えているところから、大通りで買い出しをしていたのだろう。
 静かな昼下がりだった。
 その静けさのまま、唐突に、男の左手が爆ぜた。続いて左足。

 「っっ…!!!!」

 倒れ込みながら振り向いて銀色の銃を構えるが、その銃さえも見えない手で弾かれた。

 「よく外に出る気になるな」

 ゆっくりと黒髪の男に近づいて行くのは、赤毛でそばかすの男だ。

 「ソレンティアの学生がまさか追撃に来るとは思わなかったか?
 左足を負傷させれば満足して大人しく学校に戻ると思ったか?」

 ん?とにこやかとさえ言える笑みを浮かべながら、赤毛の男が同じような銀色の銃の引き金を引く。音も無く、黒髪の左肘が撃ち抜かれた。
 銀色の銃…トムの双頭の鷲には消音装置が付いていた。静かな昼下がりだ。

 「は、…あんしん、したよ…ブラックマン…
 脳みそまで緩んだわけじゃないようだな」
 「緩んでんのはてめぇだろ。誰を相手にしてると思ってやがる」
 「人を傷つけたこともねぇガキに囲まれて何言ってやがる。
 仲間ごっこは楽しいか?」

 暗い笑い声が響く。トムは侮蔑の眼差しで見下ろした。

 「忘れてねぇだろうな、俺たちとてめぇの周りにいる奴らは世界が違うんだよ。
 誰にも頼らねぇ、誰にも信頼を預けねぇ、一人で生き延びていく道を選んだんだろ。
 あの火事の夜から」
 「……お前、"どこ"の構成員だ?」

 トムの声に温度が無い。おそらく、こんな声をあの4人は聞いたことも無いだろう。
 ここにいるのはソレンティアの学生では無いのだ。

 「心当たりがあり過ぎるだろ」

 け、と黒い男が毒づいた。「まあな」とトムは頷いて男を通り過ぎ、転がっていた奴の銃を拾い上げる。「偽物だ」
 自重気味に男が告げた。トムは気の抜けたように眉を上げ、グリップに双頭の鷲が…しかしトムの銃に彫られた鷲とは似ても似つかない鷲が…彫られた銃を、再びポイ捨てした。
 そして、男を振り返る。

 「医者を呼んでやろうか?」
 「は?何言ってやがる」
 「お前、もう魔法使えねぇよ?」

 そこで初めて、男の目が見開いた。構成式を組み上げようとしている気配がしたが、おそらく全く手応えが無いことだろう。
 身体が動かなくとも魔法が使えるということであった余裕が無くなったのか、黒髪の男の目に警戒色が浮かぶ。
 それを受けてトムが口端を上げた。

 「てめぇがどこの誰だかはまぁ、どうでもいいわ。
 どこの誰でも言うことは変わらねぇからな」

 笑ったのではない、目が笑っていない。

 「次に手を出して来やがったら、左手と右足を"貰う"。
 それでも手を出してきたら今度は目だ。右目から貰ってやる。
 俺がソレンティアにいる間はてめぇを殺すことはできない。
 だが、奪うことは出来るんだよ」

 これを嘘だと言うには、右手と右足を再起不能なまでに撃ち抜かれた相手には身に覚えがあり過ぎるだろう。
 トムは胸のホルターに双頭の鷲を収めた。

 「てめぇの前にいるのはソレンティアの学生である前に、てめぇと同類だってこと忘れんな」

 忌々しげに吐き捨てるようにトムは言い切った。
 そして予め呼んでいた警察が来る前に、俺たちは再び明るく賑やかな大通りに出たのであった。


 ひょい、とトムのジャケットの内ポケットから顔を出すと、「おぉ」とトムが見下ろした。

 「上手く行ったみてぇだな」
 「あぁ、おかげさまでな」

 トムが不愉快だったろう会話をしている間を使って、俺は黒髪の男から大海にまつわる全ての権限を削除していた。
 見上げたトムの瞳はいつもの青さを持っていて、とても先ほどまでの人間がしていた目とは思えなかった。

 「商人の方はどうするのだね?あの商人が一度狙いを決めた商品をそう簡単に諦めるとは思わないのだけれど」
 「おぉ、そっちも心配すんな。お前のことも含めて警告しておいてくれって言っといた」
 「"言っといた"?」
 「『組織のメンバーに手を出すことがどういうことか丁寧に教えといて』て、俺の"実家"の家族にな」

 これなら校則に引っ掛からないだろ!とトムは得意げに胸を張った。おぅ、組織って怖いぜ。
 改めてこの男が巨大な組織の構成員であることを思い知った俺だが、見上げる俺を見るトムの目は大介や他の仲間を見るそれと変わりがない。

 「…さっきの」
 「うん?」
 「さっき、偽物の双頭の鷲を拾っただろ?
 本物を探しているのか?」

 俺が尋ねると、トムはふと笑って頷く。

 「前に言ったろ?約束がある、て。
 こいつの双子を探して再会させる、て、約束したんだ。
 必ず果たすと約束したんだよ」

 とんとん、と胸のホルターに収まっている銀色の銃を叩いた。
 誰と、とは聞かずとも、変わらない瞳の色を見れば推し量れるというものだ。

 「…どうした?」

 じ、と見つめた俺をきょとんとトムが見下ろした。

 「トム、聞いてくれ」

 言っておかなければならない気がした。というより、彼に言いたくてたまらなかった。
 周りには人がたくさんいたけれど、問題ない。どうせ誰も聞いていやしないだろう。

 「君が人を殺していようとどうあろうと、君と大介たちがいる世界は"一つの朝"を置いて他にない」

 もちろん、さっき黒髪の男が言っていた世界の定義と、今俺が言っている世界の定義が異なることは十分承知の上だ。
 だが、それがトムと4人を繋ぐものの前に、一体何になるというのだろう。

 「俺は君を称えたい。君は君のありようを自覚しながら、それでも尚、人との繋がりを断つことをしなかった。君は立派に今も誰かと、大介やキールやカイトや牡丹と繋がっているんだ。

 人を疑うことより、人を信頼し続けることの方が遥かに困難だ」

 君はあの男と同類などではない。

 「大体、」と言って黒髪の男の顔を思い出した途端に、なんだかむかむかと腹が立って来た。
 一度でも蔑称で呼ばれたことを俺は忘れないぞ。

 「だれも信用せず一人で生きていく、だと?
 てめぇが今朝町の食堂で食べたハムエッグも大通りで買ったスパムもてめぇ以外の人間の手が掛かって作られたもんなんだよそれを手に入れているってことは少なくとも口に入れて安全であると信頼してるってことなんだよ誰も信用せず一人で生きていくなんてのは」息継ぎ「前人未到の未開の山奥で完全自給自足を100年以上続けてから言えってのクソガキめ」

 はっ、と溜まっていたものを吐き出すと、唐突に頭上から笑い声が降って来た。
 俺の存在に気付いてない周囲の人と同じ驚きを持って俺が見上げると、実に愉快そうにトムが笑っていた。

 「わりぃわりぃ、つか100年て下手したら死ぬし」

 くつくつと笑いの収まらないトムは、謝りながら俺の頭をぐりぐりと掌で撫でた

 「時間感覚はともかく、賢人も意外に俺たちと近い感覚持ってんだな」
 「当然だ、君たちと同じ生き物だからね」

 その長さが長かろうと短かろうと、命を持った生き物である以上、一人では生きてはいけない。
 その一線は越えようと思って越えられるものではなく、越える必要もまたないものだ。



 「さて、とらには一つ貸しがあるからな。俺でよければ次の目的地まで送るぜ?
 どこに行きたい?」
 「そうだね…」

 ふむ、と俺は考える素振りを見せてみたが、もうとっくに次の目的地は決まっている。

 「ソレンティアなど面白そうだな」

 トムは一瞬きょとんとしたが、すぐに面白げに目を細めた。「任せとけ」
 そうして突き出された彼の大きな骨ばった拳に、こつんと小さく俺の拳をぶつけた。



双頭の鷲 了









 「こ、こ、コドコド様ぁぁ…っ!!」

 ばたばたと癖のある金髪を揺らして、牛のセリアンの女性が豪奢な扉を開けて駆けこんで来た。

 「や、やややっぱり異形が出現しております、よぉぉ…っ この間討伐を依頼した村のすぐ近くですぅぅ…っ」
 「だろうな、昨日一人、"友人"を招いたから」

 落ちついた深紅のビロードのカーテンが縁取る出窓から、卵を一口齧ったような形の町を見下ろして、上から下まで真っ白な青年が落ち着いた声音で返した。
 白い左右非対称に刈り込んだ髪、白い上下のスーツ、ジャケットから伸びる豊かな羽も真っ白だ。
 コドコドと呼ばれた青年は町を眺めていた視線を牛の女性に向けた。「ま、還されてしまったけどな」

 「そそそその件も町でちょっと騒ぎになってますよぉぉ…
 一夜で廃倉庫が文字通り廃倉庫になっちゃった、てぇぇ…!竜の咆哮を聞いたとか、竜の姿を見たとか…っ」
 「完全に見られてしまっているな。まさか本物の竜では無く、竜型の異形と思っているだろうけど。
 責任者はいつもの警部でいいんだよな。手を回しておいてくれ」
 「既に回しておりますぅぅ…っ 特に周りに被害もありません、けど、ものがものですから、しばらく噂にはなりそうです、よぉぉ…っ」
 「そうだな、まぁ人の噂も何日まで、なんて言葉があるし、問題なかろう。
 ありがとうな、モノリ」

 にこ、と笑って礼を言うと、モノリは「ももも勿体ないお言葉ですぅぅ…っ」と持っていた書類で輝く笑顔オーラを遮る。
 あんな輝かしいものに当たっては自分は掻き消えて"大海"に戻ってしまうだろう、恐ろしいお人だ、とモノリは戦いた。

 「でででではっ…、残る問題は先ほどの異形、ではないかとぉ…っ」
 「そうだな。"致し方ない"とはいえ、立場上放っておくこともできないか」

 出窓の前に備え付けられた重厚な樫の事務机に座りながら、コドコドはふむ、と考えた。
 そろそろ、と机に向かいながら、モノリはコドコドに「あのぉ…」と質問を投げた。

 「そもそもなぜいきなり…"同胞"を呼ばれたのです、か…??」


 異形の出現はとある条件下で発生する。
 その条件とは、"竜の渡り"と呼ばれている。大海に存在する"確固たる意志を持った精神体"である"竜"が、"朝"に顕現するときに空く隙間から零れて来た力が"異形"となるのだ。
 "竜の渡り"で開く隙間は竜が顕現する場所と同じとは限らない。
 昨夜、コドコドによって呼ばれた竜の隙間からの出現は、どうやらソレンティアの学生が討伐クエストを行ったばかりの場所だったようだ。開きやすい場所というのがあるらしい。


 「珍しい客が来ていたようだったから」

 楽しげに目を細めて、コドコドはモノリに答えた。
 この世界に8人しかいない存在の一人が来ていたようだ。
 本当は直に対面できるはずだった。この町の商人がそれを手に入れたという情報を聞いてぜひともと交渉したのだが、その後逃げられたと報告を受けていた。
 自ら出向かおうかと思ったが商人根性を発揮していた相手を見て様子見を決め込んでいたのだが、眼下で繰り広げられたやりとりが楽しそうだったのでつい横槍を入れてしまったのだった。
 呼び出した知り合いは手酷い歓迎を受けてしまったが、死んだわけではない。そもそも自分たちに"死"は存在しない。生き物ではないからだ。彼はこちらに姿を留めておくために作られた"核"を破壊されたため、姿を留めきれずに"大海"へと戻っただけだ。
 しかし彼にとっては面白くないことは確かなので、後で謝っておこうとコドコドは考えていた。
 残念なことに8人の"彼ら"と、自分やモノリや他の"同胞"たちとの仲は良くない。世界を"止める"ことを目的とする存在と、意図はなくとも世界を揺らしてしまう存在とでは、まぁ仲良く出来ないことは当然だろうとコドコドが思ったのは、ゆうに100年を超える以前のことだ。

 なんとも微妙な表情でコドコドを見るモノリに、にこりと笑いかけると、コドコドは引き出しから一枚の書類を出してサインをした。

 「討伐をソレンティアに依頼してくれ」
 「とっ…討伐を依頼したばかり、です、けどぉぉ…っ」

 一般のギルドもありますよ、とモノリが慌てて提案するが、コドコドはさらりと言いのけた。

 「俺、あの学校好きなんだ」



 世界は揺れる。それぞれの思惑を交差させて。
 一人の小さな賢人と、ある特殊学校の学生が出会ったのは、そんな曖昧な、しかし確かに存在する世界の中の片隅であった。





(緑のほとり 序 了)



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